モデル・研究所

Deep Principle、GLM-5.3ベースのオープンウェイト科学特化モデル「Hydrogen-1.0」を公開

スタートアップのDeep Principleは、Z.aiのGLM-5.3を自社の実験ノートで事後学習させた化学・材料・生命科学向けモデル「Hydrogen-1.0」を公開した。ウェイトはMITライセンスで提供され、GPT-6 Astraを上回るとされるベンチマークスコアは開発元による自己申告である。

光るガラスフラスコから空中に立ち上る、発光する結晶性の分子構造のビジュアル。
AI生成イラスト

スタートアップのDeep Principleは11月2日、化学、材料科学、生命科学に特化した大規模言語モデルHydrogen-1.0を公開した。ゼロから学習されたモデルではなく、Z.aiのオープンモデルであるGLM-5.3をベースに採用し、自社の実験データを用いて事後学習を行っている。ウェイトはMITライセンスのもとでHugging FaceおよびModelScope上で公開された。開発元によれば、Hydrogen-1.0は科学研究テストにおいてOpenAIのGPT-6 Astraを上回るとされているが、第三者機関による検証はまだ行われていない。

実験ノートを学習データに活用

同社が独自性を主張しているのはデータの内容だ。化学、材料、生物学の一般知識に加え、Deep Principleは社内チームの電子実験ノートを活用した。そこには研究者が何を学ぼうとしたのか、採用したプロトコル、観察結果、さらには失敗を含む実験成果が記録されている。これらに加え、研究キャンペーンがどのように進展するかを示す一連の選択と結果である「発見の軌跡(discovery trajectories)」も組み込まれた。学習には、教師あり学習と、研究成果に基づく強化学習が組み合わされている。

ブログでは、MegatronとSGLangをベースとし、Nvidia(CUDA)とAMD(ROCm)の双方のGPU上で動作する学習インフラについても説明されている。Hugging Faceのモデルカードによると、本モデルは100万トークンのコンテキスト長と、最大12万8000トークンの出力に対応する。リポジトリの記載ではパラメータ数は約7530億で、8基のGPU環境でテストされており、一般的なワークステーションで手軽に動かせるモデルではない。Nvidia Blackwell向けのNVFP4や、AMD Instinct MI350XおよびMI355X向けのMXFP4といった4ビット量子化版も用意されている。なお、完全なデータセットや学習レシピは公開されていない。

開発元が公表したスコアの分析

Deep PrincipleのChenru Duan氏によると、Hydrogen-1.0はFrontierScience-Researchで38.3%を記録し、GPT-6 Astraの33.3%を上回った。また、GPQA Diamondでは93.0%に達したという。ブログでは、このGPQAのスコアはMoonshotのオープンモデルであるKimi K3と同等水準であると説明されている。同氏によれば、社内における3つの検証シナリオにおいて、最大思考モードのGPT-6 Astraと比較した場合、科学計算(76.9%対71.8%)および反応予測(90.5%対85.7%)では上回ったものの、NMRによる構造同定(26.7%対30.0%)では下回る結果となった。

また開発元は、材料探索テストの結果も強調している。5サイクルの対話の中で、モデルが遷移金属錯体を提案し、自身の選択の結果を受け取るというものだ。5サイクル目において、平均最良HOMO-LUMOギャップはHydrogen-1.0が4.318 eVに達し、GPT-6 Astraの3.689 eVやKimi K3の3.353 eVを上回った。ただし、これらは社内評価であり、テストセットは公開されていない。

利用環境と提供形態

このモデルは4つの方法で利用可能だ。Hugging Face(アカウント情報の共有への同意が必要)およびModelScopeからのウェイトのダウンロード、学習パートナーであるNeuroSparkによるAPI提供、そしてDeep Principleの「AI Scientist」ツールであるMiraへの統合である。モデルカードには、出力結果に事実、計算、参考文献の誤りが含まれる可能性があり、意思決定に利用する前には必ず検証を行うよう注意書きが添えられている。

編集部の見方

Hydrogen-1.0は、ある明確なトレンドを浮き彫りにしている。それは、GLM-5.3のような中国発のオープンモデルが専門家たちの基盤となり、そこに独自の業務データが付加されるケースが増えているという点だ。Deep Principleの主張には原理的な説得力がある。失敗の記録を含む実験ノートは、汎用モデルを開発する巨大ラボが持ち得ない貴重なデータ資産だからだ。しかし、示されている証拠はあくまで開発元による主張にとどまる。GPT-6 Astraに対する優位性は単一の公開テストに基づくものであり、GPQA Diamondでの差はごくわずかで、際立った成果の多くは非公開の社内テストによるものだ。また、実験計画タスクに関する詳細も見逃せない。GPT-6 AstraとClaude Opus 5.5はプロンプトの大半を拒否したために比較から除外されたとされており、これはHydrogen-1.0の能力の高さというより、プロプライエタリなモデルの安全フィルターの厳しさを示している側面もある。最後に、MITライセンスの採用は研究機関にとって大きな魅力だが、その巨大なモデルサイズゆえに、ローカル環境での活用は複数GPUを備えたサーバーを保有するチームに限られるだろう。

出典

  1. Deep Principle — Introducing Hydrogen-1.0(技術ブログ) 一次情報
  2. Hugging Face — モデルカード deep-principle/Hydrogen-1.0 一次情報
  3. ModelScope — Hydrogen-1.0 一次情報
  4. Deep PrincipleのX公式アカウント — Hydrogen-1.0の発表 一次情報
  5. Chenru Duan氏(Deep Principle)のX投稿 — 公表スコア 一次情報
  6. Chenru Duan氏(Deep Principle)のX投稿 — 社内検証シナリオのスコア 一次情報

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